第9話:わたしの荷物がダンボール箱に

『わたしの荷物がダンボール箱に』

 機嫌よく、吉本興業に戻って、仕事をしていたわたしだった。なのに、運命なんて分らない。ささいな出来事を発端に木村政雄さんが吉本興業を退社されることになった。横で、見ていたわたしにとっては、理不尽なことばかりだったけれど、木村さんは、「ここで、あがいて会社にしがみついて生きている人間だという姿を、僕に付いてきてくれている若い子たちに見せたくない」と、一言の弁明もせずに、退社を決められた。季節は、秋の終わりだった。

 この時に、わたしは、いろんな風景を見た。「絶対に木村さんに付いて行きます」なんて言っていた人たちに限って、「家庭もあるし・・・」と、手のひらを返したように、木村さんから離れて行った。木村さんは、「まっ、8割の人は、離れて行くだろう。それでいい。残りの2割の人とまた何かやればいいんだ」と、笑っておられた。


 当然のことだけど、「大谷くんも会社を辞めてくれ」と、いう話になった。わたしは、いいけど、3月までは、リーダーズカレッジもある。仕事の区切りだけは、つけさせてくれるように頼んだ。そして、それは、一応、了承された。が、わたしが、東京に行っている時にデスクの女性から携帯に電話があった。

「大谷さんがいないのに、急にオフィスのレイアウトを変えることになって・・・」

「じゃあ、わたしの荷物をまとめてわたしのデスクに置いておいて」

「それが、大谷さんのデスクが、図面に無いんです」

「どういうこと?」


完全な林社長のわたしへの嫌がらせだった。「とりあえず、そのへんのダンボールに詰め込んで、ほっといて」と、言うしか無かった。


 周囲のみんなは、わたしが、つらくて泣いていると思っていたらしい。ところが、結構平気だった。人間、やりたいことが明確だと、少々のことは、大した問題でなくなる。「デスクくらい無くても、何とかなるわ」と、思っていた。それよりも、その時のわたしの頭の中は、地域活性と、人材活性の仕事でいっぱいだった。


とりあえず、今まで作ったソフトだけは、持って出られるように交渉しなきゃ・・・と、思っていた。


つづく

最終話